Yafoストリート奇跡の出会い(後編)

HEAVENESEのユダヤ人学校とアラブ人学校での訪問が、あっと言う間にまとまると、
トレイシーがこんな話しをし始めました。

「今、エルサレムの子供たちの間には問題がある。
それはアルコールやドラッグの問題で、なんとかしたいと思っている。
実は1年半まえから、あるプロジェクトを始めていて、それは、アルコールが無いライブクラブをつくるということで、若い子たちが集まれる場所を作ること。それが、今のエルサレムに必要なの」

何と言う事でしょう!
ご存知の方も多いと思いますが、HEAVENESEが拠点として活動するライヴカフェ、
KICK BACK CAFÉそのものじゃないですか。

今月でちょうど10周年を迎える東京調布の仙川にあるKICK BACK CAFÉは、
HEAVENSEのリーダーで作家、カウンセラーでもあるマレと、妻クミコがオーナーとして2004年にオープンしました。

「家族連れで安心して来られるライヴハウス」という主旨で、ノンアルコール・ノンスモーキング(外に喫煙コーナーあり)という、現在は同コンセプトの店も多いのですが、10年前はどこにも無い画期的な試みとして、注目を集めました。

kbcKICK BACK CAFE(東京調布)

すかさず、チラシを渡して、
「あなたが言ったことを我々は東京でやっているんです」と言うと、
彼女はのけぞる程驚いて「すでにやっている人がいた!ほら、私の言ってることは、変じゃないでしょ!」
と、興奮は頂点。

そして、
「今は、毎月一回、あるバーを借りて、そこで開催しているんだけど、それが今日なのよ。
7時半から9時まで。2バンドでるから、ぜひ顔だしてほしい。
そして私たちに、どうやっていけばいいのか教えてほしい。
キックバックカフェをエルサレムで作ってほしい!」
というのです。
「こんな出会いは偶然じゃないでしょ。神が導いてくれたのよ」とも。

なんだかもう、わけがわからなくなりました。

本当は、久美子も体調が悪いし、少し近辺をあるいて、城壁を観て早く帰ろうと思っていたマレでしたが、
二人そろって旅先に出向くと、必ず予期せぬ出会いがあって、こういうことの連続です。

実は、この日も昼前にメンバーが滞在しているホステルを観に行ったとき、
今まで一度も会わなかったというフランス人の映画関係者が、その時だけなぜかいて、
「アラブとイスラエル人が和合していくためのプロジェクトを推進している人権団体のドキュメントを撮るために、ボランティアでエルサレムに来ている」というのです。
短い時間でしたが、HEAVENESEの働きを紹介すると、非常に感動して、ぜひライブを見に来ると言ってくれました。

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さて、学校から解放されて、皆でYofaストリートを下って旧市街へ歩きました。
夕日に映えるライトアップされた城壁が見えて来たとき、まるでディズニーランドだと皆が思いました。
きれいすぎるのです。
誰もがここにくればわかりますが、紛争のイメージは完全に吹き飛びます。

Jaffa門から旧市街に入り中を歩きました。
嘆きの壁に入る前に、飛行機のチェックインのように手荷物検査があり、
楽器の持ち込みはできないといわれ、ユダヤ人地区からまわれば、楽器を預けることができるからそちらに回ってくれ、と言われました。

そこで一行は、闇夜にライトアップされた美しい嘆きの壁を左手に見ながら、暗い迷路のような旧市街を歩き続けました。
どっちにいけばいいのかなと思い始めたところに、60歳くらいのおじさんが話しかけて来て、
「どこにいくのか?」と言います。

「嘆きの壁だ」というと、
ついてこい、と笑いながら案内してくれたのです。

結局彼のおかげで、迷わずに別の入り口に到着できました。
その後もずっと同行してくれて、いろいろ案内してくれる。
あまりにも親切なので、
「終わったら、金よこせとか言うじゃないの」
と、疑ってかかっていたのですが、なかなかお金をちょうだいと言わない。

嘆きの壁で記念撮影をしている間、わざわざパンフレットをとりにいってくれたり、いろいろ世話してくれるのです。

そして「じゃあ」
と、去っていく。

「あれ、この人、本当に優しいだけじゃん」

皆が感動しました。
本当に心から優しい世話焼きのおじさんなんだな。
彼のルーツはイエメン。
アシュケナージでない、いわゆる中東系ユダヤ人ミズラヒです。イエメンユダヤ人のシナゴーグに通っているそうです。
2年前に妻がなくなり今は一人。
久美子が、まるでお父さんと話しているように、嬉しそうに話している姿が印象的でした。
優しい世話焼きおじさん。ダニエルと言います。

嘆きの壁で別れて、太鼓など預けた荷物をゲットして、近くの出口である噴門から嘆きの壁のエリアの外にでました。
すると、別れたはずのダニエルがいる。
「バスにのるのか?」と聞くので、
「いや、Jaffa門まで歩いて電車にのって帰るんだ」
「ここからは遠いじゃないか。なんでここから出た?」
「え、ここから帰ると遠い?」
「そうだ。ぐるーっと城壁の周りを回っていかないといけない。中を突っ切ればもっと近い」
そう言って、ついてこいと歩き出しました。
結局、彼のおかげで、旧市街のユダヤ人地区を突っ切って、ショートカットで、Joffa門から外に出ることができたのです。

「今からどこにいくんだ」ときくので、34イエフダーという住所のバーにいく、電車にのって近くまで向かおうと思っていた。
その住所は歩いてすぐだ、ついてこい。
ということになって、彼に先導されてその場所にたどり着きました。

まるで道案内の天使でした。
土地勘のない我々のために、必要な場所にたどりつけるために、神様が送ってくれたとしか思えないのです。
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今度こそダニエルとお別れをして、いよいよクラブでトレイシー企画しているイベント会場。

中にはいると狭いライブバー、日本でいえばカラオケバーのような雰囲気でした。
小さなステージの上、高校生くらいのユダヤ人の男の子が歌っています。
彼が終わると、トレイシーがマレとクミコを紹介。
そして、HEAVENESE尺八奏者美土路(みどろ)が尺八を披露。

会場には、チラシ配りをしていたときに、受け取ってくれた日本大好きの男の子もたまたまいたようです。
会場の様子は、マレとクミコから見ると、まるで始まったばかりの頃のKICK VACK CAFEでした。
トレイシーは、本当に若者たちのことを憂いているようです。
こうして、実際に活動しています。
しかし、彼女がやりたいことは、実はKICK BACK CAFEが既にやっていたのです。

非常に不思議でした。
いや、よく考えると感動すべきことです。

アジアの両端で、かつて志を持って始めたカフェ。
そこから生まれた音楽グループが、全く同じ思いで歩みを始めた同士と、
あまりにも突然の出会いを経験したからです。

これが不思議の国イスラエルなのでしょうか?

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