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生まれる前にいた場所へ/Mighty Wind

制作ノート

作詞・作曲 Marre インタビュー

インスピレーションはスムース・ジャズ

── この曲の誕生秘話を教えてください

M. 誕生秘話と言えるほど のこともないんですよ。
正確にいつだったのかは覚えていないんですが、ある日、尊敬するカーク・ウエイラムのアルバムの中に収録されている楽曲の中に好きなのがあって、その雰囲気を和のテイストにしたらこんな感じかなとピアノをつま弾いていたんです。
メロディーはまるで違うんですが、コード感というかね。
あちらはスムースジャズなので、実際にはコードも全然違うし、あっちはもっと複雑で、こっちは普通のポップ。
だから、まあ、なんとなくです。
それを聞いていたクミコが「それいいね」と一言いったんですね。
それがサビのメロディーだったんです。
たぶん覚えているかぎり、あのときがこの曲が誕生した瞬間ですね。

── まさか、この曲のインスピレーションがスムース・ジャズだったとは驚きですね。

M. ははは。そうですね。でも音楽っていうのはそういうものでしょ?必ず今まで聴いて来たものや、蓄積されているものの影響が反映されるはずですよね。僕 個人に関して言えば、ジャンルを限定して聴いているわけではないので、いろいろなタイプの影響が、いろいろなところに出ているはずです。
それを日頃意識しているわけではありませんけどね。

── メロディー先行で歌詞はあとづけというわけですね?

M. そうです。その雰囲気がよかったから、曲として完成させようかなと思ったわけです。
そのときは歌詞もなかったし、タイトルもありません。
まずはサビだけがあって、そのあとAメロです。
歌い始めたときは、ブリッジもなかったんです。
Aメロとサビだけでした。

でも、大きな開場でライブをやることになって、その頃はまだ「天国民」という名義でしたが、渋谷のO-Eastで初のライブ。
まだアメリカでシーラのレーベルからデビューする前です。
2010年ですね。
そのときに、この曲もやろうかなと思って、ライブの前に書き足したんです。ブリッジを。

── そうだったんですね。完成している曲をライブでぶつけるという感じではないところが驚きです。

M. そうですね。実のところそういう場合が多いです。まずやってみて、どんどん変わっていくという感じですね。
歌詞が全面的に変わるということもちょくちょくあります。急に変えちゃうので「え、せっかく覚えたのに」なんて言われることは
よくあります(笑)

古代イスラエル「モーセの祈り」にメロディーをのせた

── では、歌詞について教えてください。歌詞にはインスピレーションがあったのですか?

M. 実は、この曲の歌い出しは旧約聖書の「詩編90章」に収められている「モーセの祈り」からとったものなんです。
長い詩なのですが、5節と6節にこういう箇所があります。

詩篇 90:5 あなたが人を押し流すと、彼らは、眠りにおちます。朝、彼らは移ろう草のようです。
詩篇 90:6 朝は、花を咲かせているが、また移ろい、夕べには、しおれて枯れます。

これを少しアレンジしたものが、「生まれる前にいた場所へ」の一番の歌い出しです。

── あ、たしかにほとんど同じですね。

M. そうでしょ?

── いやあ、この曲のインスピレーションが、旧約聖書の「詩編90」だとは知りませんでした。

M. クミコ以外、誰も知りませんよ。今初めて言ったんですから(笑)

── モーセの祈りについてもう少し教えてください。

M. モーセという人物は、古代イスラエル人の英雄ですね。
イスラエル民族は紀元前1440年頃、400年間もエジプトで奴隷であったのに、民族が一斉にエジプトから大脱出します。
有名なエクソダスですね。
これを導いた人物こそがモーセです。
そして彼らは、40年後に今のパレスチナに定住するようになるのです。

エジプトを脱出した後、かの有名な「シナイ山」で「十戒」を神からさずかり、それをイスラエル民族に与えたのもモーセです。
十戒というのは、古代イスラエル民族の憲法のようなものです。
ですから、モーセというのは、歴史の中で重要な役割を果たした古代セム系民族の巨人の一人ですね。

── その彼が記した詩が詩編90章ですね?

M. はい。詩編はヘブル語で「テリヒーム」と言います。
全編がいってみれば古代イスラエル人が神に向かって歌った歌。今風に言えば賛美歌みたいなものですね。
昔はすべてにメロディーがついていたのですが、今はその殆どが失われています。でも歌詞だけが残ったわけです。
それが「詩編」ですね。
ですから、悠久の彼方に書き記された古代イスラエル人の神に向かう魂の歌の『歌詞集』だと思ってもらえれば
いいでしょう。

── そう考えるとなんだかロマンチックな感じがしますね。

M. そうなんです。古代人の歌詞に今を生きる僕がメロディーをのせる作業は、創造性の世界で彼らと繋がることです。
詩編は全部で150章あるのですが、この90章は、唯一作者がモーセだと記されているものです。
そしてこの90章は、詩編の中でも一番古くて、「比類なき気高さに溢れた最も感銘深い詩」と謳われている詩なんですよ。
『人間のはかなさと神の永遠さ』を歌ったものです。
それほど古代イスラエル人の魂の極みのような、これこそ俺たちだ!みたいな、そういう詩なんでしょうね。
とても深遠なテーマが扱われている詩です。

── なんでまたマレさんはそんな深遠なテーマに取り組もうと思ったのですか?

M. いや、特に取り組もうと思ったわけではなく、常々考えてるというか・・。
聖書を読みますからね。日課みたいなものです。この詩はいいなあと、しみじみ思っていたんです。前から。
で、Aメロを書いたとき、メロデーにのるかなと歌ってみたんですね。
そうしたら、少しアレンジすればいける感じだったので、ああ、これでいこうと。

どこから始めたのかを思い出そうというメッセージ

── では、サビの「あなたに帰ろう」というのもモーセの祈りから?

M. いえ、あれは違います。でもはやりインスピレーションは旧約聖書なんです。
実は、旧約聖書を貫くテーマの一つに「帰れ」というのがあるんです。背信の民にむかい、「神に帰れ」と呼びかけるメッセージが
たくさんあるんです。

── 背信の民というと?

M. もともとイスラエルという国は「神主主義国家」だったんですね。
神を中心にする国。だから「神国」ですね。
この点で、日本と共通します。日本も、もともとの成り立ちは記紀によれば、初めに神ありきで、神の大御心を具現化するために
造られた国ということですよね。

古代イスラエル民族は、神から離反して、背教の道を歩みだしていきます。
どこから始まったのかを忘れてしまう世代が登場することで、あるべき最初の状態から落ちていってしまうんです。
そのような歴史の流れの中で、各時代に民族の精神性を復興させるために活躍する人々が現れます。
彼らはイスラエル民族に向かって「神に帰れ」と訴えかけます。
『建国の精神に帰れ!』というメッセージです。
どこから、どうやって始まったのかを思い出せということです。

僕は、このような呼びかけが、まるで日本人に対して向けられているように聞こえてくるんです。
だって、日本は神国として始まったわけですよね。
宗教的問題としてではなく、建国の精神がそこにあるわけです。
でも、ずいぶん前ですが、森元総理が「日本は神国だ」と言ったらだいぶ問題になってました。

だから古代イスラエル民族と同じで、どこから始まったのかを忘れ、神から離反してしまったと思うんです。
日本の場合、神国と言ったとき、欧米的な宗教国家をイメージすると、本質からずれてしまいます。

日本が神国というとき、一番大切なのは「大和」の精神だと思います。
天照大神の「心」をうけついで、それを具現化するために、日本を建国したのが神武天皇ということになっています。
倭の国が建国されたとき、神武天皇が発した言葉が記録されていて、簡単にいえば「みな家族のように一つ屋根の下で和合して暮らす」ということです。

神武天皇は、民を「大御宝(おおみたから)」と呼びました。
民を「たから」と呼ぶなんて、とても嬉しいことですよね。
これは、天皇という立場は、建国の当初から『独裁者ではない』という大事なメッセージです。

戦のない世で、民が和合して仲良くくらす。それこそが大和の精神ですよね。
これが日本建国の精神で、これこそが神の道だというわけです。

日本は、この精神を「神道」を通じてずっと守り続けて来たわけです。
仏教が伝来する以前からあった日本人の精神性の根幹をなすものです。

これは「私は仏教徒だから、あるいはキリスト教徒だから」とムキなって宗教的な排他主義によって否定されてはいけないことですよね。
むしろ全く逆のメッセージです。和合ですから。
これが国の成り立ちであり、日本の心なわけです。

── それは面白い視点ですね。確かに神話ではあっても、それが日本の正史だということになっていますよね。
でもあまり学校でならわないし、マレさんのようなことを考えている人のほうが少ないのではないですか?特に若い世代では。

M. まさにそうです。だからこそ、古代イスラエル人に呼びかけられた「神に帰れ」が、現代の日本人に向けられているように感じるんです。

── なんだか悲しい気もします。

M. 本当にそうです。特に日本は戦後、GHQの影響もあって、戦前の価値観を全面的に否定してしまったという極端な道を歩みました。
僕の母は終戦のとき12歳でしたが、たある日突然教科書がいたるところ黒く塗りつぶされていて、昨日まで教えられていたことを先生が「あれは間違いでした」なんて言い出したというんですからね。
それまでは神話の授業もあったのに、急にそれはいけません!と叱られたというんです。
子どもですからね。みなびっくりして、「なんでなんで?」と先生にくってかかる。
先生もかなり困っていた様子だったと言ってましたね。

── そういう体験談は聞いたことがあります。

M. 日本は、長い歴史と伝統がある国なのに、たとえ歴史のある一点で間違いがあったからといって、それまでのことをすべて否定するというのは、あまりにも暴力的ですよね。でも、日本では結果的にそれが大成功してしまいました。だからこそ自由主義陣営の一因として、急激な経済成長を遂げたという皮肉な一面も あるわけです。
でも、現代はその結果、格差社会だとか、いろいろなことが問題となってもいます。
僕はカウンセリングという仕事をしていますから、つくづく感じるんですが、多くの人が「日本人でよかった」と思っていないんです。
これは、戦後ずっと続けられてきてしまった教育の大きな問題だと思います。

こういう時代だからこそ、日本人は、一度立ち止まって、自分たちがどこから始まったのかを、しっかりと見つめ直して、元々歩いていたはずの道を認識しなおす必要があると思うんですね。

あなたに帰ろう 今とりもどろう、変わらない心のふるさとへ、
あなたを呼ぼう、今近づこう、生まれる前にいた場所へ

という歌詞にはそんな思いが込められているんです。
呼びかけにこたえて、あるべきところに戻ろうと、自分に語りかけている人の心を歌っています。

復興祈願祭ですべてが変わった

── この曲は、震災後、陸前高田市の復興祈願祭で奉納されたということですが。

M. はい。震災直後から、ささやかながら復興支援の働きをさせていただいてきましたが、半年後くらいに、陸前高田の広田地区というところにある
黒崎神社の総代さんから、奉納演奏のためにきてほしい、という有り難いオファーを頂いたんです。4年に一度の大きな各氏神合同の例大祭の年だったんですね。震災の年が。そのお祭りで各地域の人たちが、いろいろなものを奉納するんです。
古くから伝わる舞なども奉納されます。
でも、多くの装束など、必要なものが流されてしまったので、お祭りができないという危機的状況だったんです。
そんな中、それでも、お祭りはやるべきだという声があがって、じゃあ、奉納するものがないなら、それにふさわしい人に来てもらって奉納してもらおうということになったんです。
そして、なんと有り難いことにHEAVENESEに声がかかったんです。

── それは素晴らしいですね。

M. はい。本当にありがたいなと思いました。総代さんは、まだ一度もHEAVENESEを聴いたことも観たことももないんです。でも、震災直後からずっと広田地区でボランティアをしていたので、その活動をちゃんと認めてくださっていたんですね。

そして、その祭りの当日、午前中に行なわれる復興祈願祭の『開会式』でまず一曲奉納してくれと言われたんです。
午後にはコンサートをお願いしますと。
光栄なことですよね。
主催者の方の挨拶のあと、すぐに奉納演奏をさせていただいたんです。

そうしたら、あまりにも歌詞がぴったりすぎて、自分で歌っていて不思議なキモチになりました。
主催者の方々も「ぴったりです。いいですね」と絶賛してくださって。

歌い出しの歌詞も「あなたが押し流すと人は眠りにおち」でしょ。
押し流すっていうのは、津波で流された人々のことだと理解できますよね。

なにもかもがハマりすぎている感覚は、ちょっとあの特殊な場面でなければ決して味わえなかったことだと思います。
その体験が大きくて、あの日から、この曲は自分たちの中で全く別のものに生まれ変わったんです。
自分で書いた曲ではあるのですが、「こううい意味だったのか」と再発見したというような不思議な体験です。

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